親から譲り受けた仏壇が古くなってきたとき、修理したいと思う時期がくるかと思います。
仏壇は大事に使えば子世代、孫世代まで引き継ぐことができるものです。
ただ、それは仏壇の作りや材料でかわってきます。
あなたの受け継いだ仏壇が、
「どう直せるのか?」
「買ったほうがお得か?」
「修理にいくらかかるのか?」
をかんたんに、わかりやすく解説していきます。
こんな方にとって有益な情報になっています。
・今ある仏壇が直せるか知りたい
・修理するときの注意点を知りたい
結論:『直せるものは直したほうが満足度は高い』
いきなり結論ですが、お持ちの仏壇が修復できるならしましょう。
そのほうが、予算の面でも気持ちの面でも満足度は高くなります。
その理由ですが、『代々受け継がれたものを自分の代で無くす心理的ストレス』を少なからず持ってしまうからです。
罪悪感と言ってもいいかもしれません。
先代も手を合わせてきた仏壇です。
もちろんあなたにも、【大切にしていきたい】という想いが少なからずあるはずです。
申し訳ないとは思いつつ処分や買い替えをするのは辛い選択のはず。
そうならないためにも、直せるものなら直したほうが、心が安らぐのではないでしょうか。
『お洗濯』(おせんたく)という直し方
では、具体的に仏壇をどう直すか解説します。
昔からある方法で『お洗濯』というやり方があります。
「誰が」「いつから」お洗濯というようになったかは定かではありませんが、全国共通で仏壇を新品のように蘇らせることを『お洗濯』又は『洗濯』と言います。
修復する時、水で汚れを洗い流すため、このように呼ぶようになったのかもしれません。
【基本情報】お洗濯できる仏壇は・・・
昨今、仏壇には多くの種類が存在します。
昔からある『金仏壇』『唐木仏壇』、そして現在人気のある『モダン仏壇』『家具調仏壇』と言われる現代住宅に合うようデザインされた仏壇です。
この中で『お洗濯』できる仏壇は、昔からある【金仏壇】と【唐木仏壇】になります。
モダン仏壇はきれいにはできますが、いわゆる『お洗濯』はできません。
なぜなら、先程も話したとおり、はじめに水で汚れを流して落とします。
その時は仏壇をバラバラに分解しての作業になります。
しかし、モダン仏壇と言われるタイプは接着剤が使ってあったり、抜きにくい釘が使われているためバラすことができません。
できても元通りに組み立て直すことが極めて難しいです。
そのため掃除はできますが、お洗濯はできないと思ってください。
万が一お洗濯しようものなら、分解ができないため濡れたままの状態が長くなります。
すると、そこからカビが発生したり、木が腐ったりする恐れがあります。
衣類の生乾きから異臭がするように、仏壇にとっても生乾きはよくありません。
では、金仏壇や唐木仏壇なら全てお洗濯できるかというとそういうわけでもありません。
それぞれもう少し詳しく解説します。
金仏壇のお洗濯
一般的な話ですが、
【金額の高い金仏壇や唐木仏壇はお洗濯可能で、安いものはできない。】
という傾向があります。
具体的な金額は明示できませんが、金仏壇を購入する時は心構えとして覚えておくといいでしょう。
昔から自宅にある仏壇の場合、それもわからないでしょうから、まずは仏壇店へ連絡して見積もりをしてもらいましょう。
そして、お洗濯ができるものか、できないものか判断してもらいましょう。
大まかな捉え方ですが、国産品はできる、海外製はできないと思っておくといいです。
ただ、お洗濯はできなくても部分修復やキレイにする方法はあります。
仏壇店の人にどう直したいか、予算はどのくらいを考えているか伝えておきましょう。
その範囲内で直し方を提案してくれるはずです。
今ではネットからでも見積り依頼ができます。
相場を明示してあるサイトもあるので、参考にしてもいいと思います。
ただ、仏壇の状態は一つ一つ違います。
あくまで参考程度と思っておきましょう。
見積もりが高くてビックリしないように・・・。
金仏壇のお洗濯の工程
簡単にですが、お洗濯の大体の流れを紹介します。
多くの職人の手が入るので時間は掛かりますが新品同様に仕上がるのが最大の魅力です。
解体
一つずつ丁寧に解体していきます。
塗作業や箔押しがしやすいサイズまでバラします。
金具も全て取り外しておきます。
洗い
専用の薬剤で洗います。スポンジやブラシを使い、スス汚れやこびりついたロウを剥がしていきます。
きれいになったら乾燥させます。
完全に乾かないと内部から腐ってきてしますので、2〜3週間は陰干ししておきます。
冬はもっと乾燥に時間を掛けます。
金具の直し
外した金具をメッキ加工します。
サビが付いている場合は取り除いておきます。
ボロボロで使えないと判断された場合は新調します。
木地の直し
板の反りや傷、ヘコミがある箇所を補修します。
使えないようなら新しく作り直してしまいます。
塗り
古い塗りが残っているようならきれいに取り除いておきます。
その後、下地塗装、上塗り塗装と進め、きれいで艶のある仕上がりにします。
最近はスプレーで塗装が主流ですが、従来のやり方のハケ塗りにこだわっている職人もいます。
箔押し
組み立て
解体時と逆の手順で組み立てていきます。
この時、箔や蒔絵をこすらないように細心の注意が必要になります。
以上が金仏壇のお洗濯の大体の作業工程になります。
正直新品を作るより手間も時間も掛かります。
それでも直すのは、大切なものへの愛情、モノを大切にする心、リサイクル精神が日本人に受け継がれているからではないでしょうか。
唐木仏壇のお洗濯
金仏壇同様、唐木仏壇もお洗濯が可能です。
ただし、解体できるもの、表面材が紙でないものに限ります。
実は、安い唐木仏壇には、表面荷から木の柄を印刷した紙を貼り付けているものがあります。
一見違いはわかりませんが、あくまで紙なので研磨することができません。
唐木仏壇も安いものはお洗濯ができないと考えておきましょう。
現在、お店やネットショッピングでは価格と一緒に【表面材がなにか】表示されているところが多くなっています。
しかし、昔のものでは何が使われているのかわからないので、やはり仏壇店の人に見てもらうのが間違いないです。
では、簡単に唐木仏壇のお洗濯の工程を紹介します。
解体
洗い
金具の直し
木地直し
ヘコミや傷を修復します。障子の張替えや背板の金紙を交換します。
塗り
組み立て
唐木仏壇は金仏壇に比べお洗濯が安く設定されています。
金箔を使わないし、塗リの工程も少ないことが主な要因になります。
簡単にきれいにする方法もあります。
「簡易洗浄」や「泡洗浄」と言われるものです。
仏壇を解体せず、そのままの状態で洗うことができます。
メリット
・低予算でできる
・短期間でできる
デメリット
・金箔が取れることがある
・傷やヘコミ、歪みは直らない
・塗りのくすみはとれない(業者により磨きの工程があることもある)
・数年後どうなるかわからない(新しい工法のため)
お洗濯するときの4つの注意点
細かいことになりますが、お洗濯を依頼する際に注意しておくこと、決めておいたほうがいいことを4つにまとめました。
1.)お洗濯を頼む時は相見積もりをとる。
よっぽど故意にしている仏壇店がない限り、見積もりは2、3社から取りましょう。
お店によって、直し方も価格も変わります。
2.)納期を確認しておく
いつまでには必要である、と伝えておきます。
多くの方は年忌法要や正月、お盆などの節目に合わせてきれいな仏壇を安置したいと考えます。
冬場は特に乾きが悪くなるので、必要なときに間に合わないことがないように逆算しておきましょう。
目安として、3ヶ月は余裕を見ておいたほうがいいです。
問屋として、いくつかお洗濯を頼んだことがありますが、無理を言って1ヶ月で直してくれたこともあります。
職人の手の開き具合にもよるのですが、納期に余裕があるほうが、「よりキレイ」に直してもらえる気がします。
3.)仏壇以外の仏具などの保管場所
仏壇をお洗濯に出すと、中に安置された本尊や位牌、仏具の置き場所に困ることになります。
どこに置いておくか、又は仏壇店に預けるか、先に決めておきましょう。
私の経験ですが、2割くらいの方は仏壇のあった部屋の片隅に置いていました。
ほとんどの方は、位牌と本尊以外を預け、仏壇の納品と一緒に預けた仏具も納める方法を選択しています。
なぜ位牌と本尊は預からないかというと、いくら閉眼供養(魂抜き)がされていても本尊と位牌はとても大切なものになります。
仏具(道具)とは違うので、こちらとしても預かるのは控えています。
何かあったら責任も取れませんので。
家の改築や引っ越しの時は、位牌と本尊以外を全て預けたほうが、無くす心配もなくオススメです。
仏具も古くなっている場合、買い替えや修復を進めてくる仏壇店もあります。
4.)お寺に閉眼供養と開眼供養を依頼する
お洗濯の前に閉眼供養(魂抜き)を依頼します。
お洗濯が終わったら開眼供養(魂入れ)もお願いしましょう。
自分で掃除する場合
お洗濯やクリーニングに出すのをためらう方もいます。
そんな時は自分で掃除してみましょう。
ある程度の汚れは落とせます。
金仏壇の場合、水は「厳禁」とよく言われますが、黒塗りのところならすぐ乾拭きすれば大丈夫です。
ただ、金箔箇所は絶対拭かないように!!
ホコリを払うだけにしてください。
拭くと箔が取れる可能性が大です。
詳しいやり方や道具の紹介はこちらで詳しく解説しています。
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買うより、お洗濯したほうがお得?
お洗濯は安くありません。
小さい仏壇でも○十万円単位です。
「そもそも新しく買うよりお得なの?」という疑問を持たれる方もいるでしょう。
その一つの答えは、
昔からあるような大きな仏壇のお洗濯になると、新品を買ったほうが安くなる場合もあります。
古いものを新しく蘇らせるのは、とても手間が掛かり労力も必要です。
先程のお洗濯の工程でもわかっていただけると思います。
ただ、全く同じような新品仏壇が、お洗濯をした時と同じ価格で買えるかと言うとそうではありません。
全く同じ仏壇を買おうものなら、更に価格は上がるでしょう。
たとえ同じ大きさであったとしても、海外製であったり、木材や塗料のランクが落ち、彫り物などの細工もグレードダウンしたものになります。
同じ価格ならと、【お洗濯したもの】か【新品】か、どちらを選ぶかはあなたの気持ち次第となってきます。
個人的な意見ですが、次の世代に仏壇を継がせる気がないのであればお洗濯はせず、別の仏壇を買ったほうがいいと思います。
これから子供も独立していき、別の地で所帯を持つこともあるでしょう。
あなたの仏壇を継いでくれるとは限りません。
そんな時、小型の仏壇に買い替えておけば移動もしやすく、子供も受け入れやすいでしょう。
家族みんなでどの仏壇がいいか相談して決めることもできます。
このように、お得かどうかはケースバイケースになります。
将来のことをよく相談して決められるのが一番だと思います。
はじめまして、仏具問屋といいます。10年以上、仏壇仏具の卸問屋に勤めています。 現在も日々勉強中ですが、少しでも皆さんの、「仏壇や仏具の心配事」がなくなるように、頑張ります。 […]
まとめ
仏壇のお洗濯をする【メリット】や【デメリット】を紹介しました。
結論は、
「直せるものなら直したほうがいい」です。
ただ、受け継いでくれる人がいることが前提です。
直せば何十年と使うことができるのが仏壇です。
引き取り手もないのに直すのはもったいないです。
自分の代で終わらせるのは忍びないとは思いますが、子供が気持ちよく面倒見てくれる仏壇に買い替えも検討してみてください。
形が変わってもあなたの、そして先祖代々の【想い】は受け継がれていくでしょうから。